収録アルバム "Captain Beyond"
今回は1972年にアメリカで結成されたキャプテン・ビヨンドのデビュー・アルバム "Captain Beyond"(邦題:キャプテン・ビヨンド)から、リード・ナンバーの "Dancing Madly Backwards"(邦題:ダンシング・マッドリー・バックワーズ)をご紹介します。
バンド結成時のボーカリスト、ロッド・エバンスは、最強の老舗ハード・ロック・バンド、ディープ・パープルの初代ボーカリストとして有名ですね。1968年のデビュー・シングル "Hush" が良く知られています。
このロッド・エバンスが、パープルを脱退して新しいバンドのためにメンバーを探していたところ、こちらもプログレッシブ・ロックやハード・ロックのルーツとして偉大な足跡を残したアイアン・バタフライというバンドのラリー・ライノ・ラインハルト(ギター)、リー・ドーマン(ベース)と出会い、意気投合して作られたのがキャプテン・ビヨンドです。
ちなみにドラムはジョニー・ウィンターなどと活動していた凄腕ドラマー、ボビー・コールドウェル(AORのあの人とは同姓同名の別人です)をメンバーに加えました。
そして1972年にリリースしたデビュー・アルバムが、今回ご紹介する "Captain Beyond" です。
「ディープ・パープルとアイアン・バタフライの合体したスーパー・バンド!」みたいな話題を提供はしたのですが、世間の評価は今ひとつで、セールス的にも成功とは言えない結果となってしまいました。
しかしながら、個々の演奏技術は非常に高く、アルバムの完成度も素晴らしいものがあります。
このアルバムの全体を通しての印象としては、スペーシーな浮遊感が漂う幻想的な「プログレッシブ+ハード」ロックというところでしょうか。
バンドの構成上シンセサイザーなどのキーボードの類はおそらくほとんど使っていないと思われるのですが、ギターの多重録音により様々な表情が入れ替わり現れるのを聴いていると、「こいつら、タダものじゃない!」と思わずにはいられません。
アップテンポなパートではオーバードライブ(時代としては「ディストーション」ですね)の効いたギターの疾走感が非常に刺激的なのですが、スローなパートではアコースティック・ギターも駆使してシャボン玉が漂うかのようなフワフワとした浮遊感を創造しており、両極端なサウンドの組み合わせが実に見事です。
加えて、5拍子、7拍子などの変拍子をさりげなく多用するリズムや、深めのエコー処理が施されたボーカルのアレンジが、不思議な空間の演出に一役買っていますね。
そんな不思議な感覚に満ちたアルバムのトップを飾るのが、今回ご紹介する "Dancing Madly Backwards" なのですが、いきなり5拍子のドラムからスタートします。
そこに重いギターのリフが加わり、ロッドの伸びのあるボーカルが入ってきます。
そして唐突にリズムは8ビートに変わり、スピード感あふれるギター・ソロから再びボーカル・パートへ。
その後、3拍子に3連符を組み合わせた変則的な拍子のギター・リフによるエンディングになりますが、ギターの多重録音によるリフのハモリが絶妙で、最後の最後まで独自の世界観の創出に抜かりがありません。
「ハード・ロック」と言ってしまうにはあまりにも前衛的・挑戦的過ぎてしまい、逆に「プログレッシブ・ロック」と言ってしまうには疾走感のあるロックな魂を置いてきぼりにされているような気がします。
悪く言えば「中途半端」と言えないことはないのですが、それをカバーして余りある、演奏技術の高さとセンスの良さを感じることができます。
ぜひ一度、お聴きください!