収録アルバム "Aja"(邦題:彩(エイジャ))
今回は、アメリカのジャズ・ロック・バンド、スティーリー・ダンのアルバム "Aja"(邦題:彩(エイジャ))からタイトル曲の "Aja" をご紹介します。
スティーリー・ダンは、アメリカのニューヨークにて、ドナルド・フェイゲン(ボーカル、キーボード)、ウォルター・ベッカー(ベース)の二人が中心となって結成されました。
1972年、アルバム "Can't Buy A Thrill"(邦題:キャント・バイ・ア・スリル)でデビューするのですが、このアルバムからシングル・カットされた "Do It Again" が全米6位のヒットとなり、アルバムも全米17位を記録、幸運なスタートを切りました。
しかしながら、フェイゲンとベッカーの演奏の完成度に対する理想があまりにも高すぎるために、外部のスタジオ・ミュージシャンを積極的に起用するようになり、徐々にバンドとしての形態が失われていくことになります。
また、二人が精神的にも肉体的にも負担のかかるライブ演奏を拒否していたことも、バンド内での軋轢を産む要因になっていました。
1973年にはセカンド・アルバム "Countdown To Ecstacy"(邦題:エクスタシー)、1974 年にはサード・アルバム "Pretzel Logic"(邦題:プレッツェル・ロジック)をリリースし、シングル "Riki Don't Lose That Number"(邦題:リキの電話番号)が全米4位になるなどのヒットも放ちます。
が、この頃にはバンドはもう崩壊寸前状態で、フェイゲン、ベッカーは他のメンバーを次々とクビにして、以降の作品をラリー・カールトンやスティーブ・ガッドなど、ジャズ・フュージョン系の実力派ミュージシャン達と作り上げていくことになりました。
ほぼ、フェイゲンとベッカーの二人のプロジェクトのような形で、
1975年 "Katy Lied"(邦題:うそつきケイティ)
1976年 "The Royal Scam"(邦題:幻想の摩天楼)
などの作品を続けて発表し、その妥協のないハイ・レベルな楽曲や演奏は、内外からの高い評価と大きな支持を得るようになります。
そして、1977年、アルバム "Aja"(邦題:彩(エイジャ))をリリースします。
一流ミュージシャンを何十人も起用して作られた贅沢なアルバムですが、それなりに反響も大きく、全米3位というバンドとしては最高のセールスを記録することになりました。
スティーリー・ダンの音楽性の特徴と言えば、難解な構成の楽曲と妥協を許さぬ緻密な演奏に裏打ちされた独特の世界観ということになるでしょう。
そのサウンドは、ロックやポップスを基調としながらも、例えばブリティッシュ・ロックのような様式美を追及した楽曲とは対極を行くもので、意表を突く予期せぬコード進行や、4thや9thを多用した複雑かつ計算し尽された和音で構築されています。
クラシックやジャズを理論からちゃんと学んできた方には理解できるのかも知れませんが、特にそのような勉強をせず、ブリティッシュ・ハード・ロックの「Am - Dm - G7 - C」みたいな4度進行に慣れ親しんだ私としては、スティーリー・ダンの楽曲は「え、ここでそっちに行っちゃうの!」的な意外性と驚きの連続ですね。綺麗に離陸したけど風を受けてフラフラと帰着しそうでしない紙飛行機を見ているような。
今回ご紹介するアルバム、"Aja" ですが、フェイゲンとベッカーの叡智とこだわりが見事に結実した非常に完成度の高い作品です。
レコーディングに参加したミュージシャンの名前を少しだけ挙げると、
□ ドラム:スティーブ・ガッド、リック・マロッタ
□ ベース:チャック・レイニー
□ ギター:ラリー・カールトン、ジェイ・グレイドン、ディーン・パークス
□ キーボード:ジョー・サンプル、マイケル・オマーティアン
□ サックス:トム・スコット、ウェイン・ショーター
これだけでも凄い顔ぶれが集まったものだ!という豪華メンバーですね。
アルバムの全体的なサウンドの印象としては、メンバーを見てもわかるように、ロック、ポップス、RBのエッセンスは漂ってくるものの、基本的にはジャズ、フュージョン寄りの音ですね。
上でも少し書きましたが、複雑で緻密に計算された曲構成、和音構成の楽曲を凄腕ミュージシャンがサラリと(簡単そうに)演奏しているのが驚愕です。
そして、驚くべきは録音技術の精密さ!
ひとつひとつの楽器の音が非常にクリアで、余計なエフェクトのかかっていない楽器そのものの生の音の饗宴を聴いているようです。スティーリー・ダンのCDはサウンドのプロ達が録音機材のチェックに使っているという話ですが、それも何のわだかまりもなく理解できますね。
今回ご紹介するアルバム・タイトル曲の "Aja" ですが、フェイゲンがインタビューで「友人の韓国人の奥方にインスパイアされて」作った曲だと言っていますが、その通りにジャズ/フュージョンの旋律の中にどこか東洋(アジア)を感じることができる一曲です。
しっとりとしたミドル・テンポのピアノで始まるこの曲ですが、エキゾチックなメロディに乗せたフェイゲンの情感たっぷりのボーカル・パートを挟んで、中盤のドラム(スティーブ・ガッド)とサックス(ウェイン・ショーター)のインプロビゼーション的な競演で一気に熱を帯びていきます。
再びボーカル・パートで一旦は落ち着きを取り戻すものの、エンディングは再びスティーブ・ガッドの魂を揺さぶられるような熱いドラミングで徐々に幕を閉じていきます。
フェイゲンにとっての(おそらく)まったく異国の地である遠いアジアに思いを馳せるような、心地よい余韻を残すようなエンディングのドラムが効果抜群ですね。
このアルバムでは、シングル・カットされて全米11位まで駆け上がった "Peg"(邦題:ペグ)も聴き所満載の名曲です。
こちらはかなりポップ調で聴きやすい曲ですが、イントロの中でも転調を繰り返すという、なかなか一筋縄ではいかないのがフェイゲンの凄さですね。
特に耳を傾けて頂きたいのが、リック・マロッタのドラムとチャック・レイニーのベースから成るリズム・セクションの超絶プレーです。音数をできるだけ抑えているのですがキレキレでしっかりビートをキープのドラムに絡む、逆に休む間もないくらい五線譜の上から下まで駆け回るベースには、ぶっ飛びますね。
間奏のギター・ソロですが、誰に弾かせても満足できなくて、6~7人目にジェイ・グレイドンが弾いたソロをようやく気に入って採用した、というフェイゲンが強いこだわりを持った曲でもあります。
ロック畑の方々にはなかなか取っ付き難い部分もありますが、聴けば聴くほど味わいが出て来るのがスティーリー・ダンではないかと思います。
ぜひ一度、お聴きください!