今回から3回にわたり、「洋楽ファンならワカッて欲しい!邦楽女性ボーカル名曲集!」をお届けしたいと思います。
第1回目の今回は、河合奈保子さんが1985年にリリースした「THROUGH THE WINDOW ~月に降る雪~」をご紹介します。
アイドル歌手として1980年にデビューした河合奈保子さんでしたが、次第に楽曲やアルバムの制作面にも関与し、プロのアーティストとしての強い自覚が目覚め始めた頃にリリースした、アメリカ・LAのスタジオ・ミュージシャンをバックに従えての意欲作です。
この「THROUGH THE WINDOW」は、アメリカのロック・シンガー、グレイス・スリックが1984年にリリースしたアルバム "Software" に収録されている曲のカバーです。
グレイス・スリックといえば、ジェファーソン・エアプレインやスターシップのリード・ボーカルとしての活動が有名ですね。パワフルでエネルギッシュ、情熱的なボーカリストで、"Nothing's Gonna Stop Us Now"(邦題:愛は止まらない)は全米1位になりました。そのほかにも、多くのヒット曲・名曲を世に送り出しています。
また、この曲の作詞・作曲はピーター・ベケットという方なんですが、こちらは1977年の全米NO.1ヒット曲 "Baby Come Back" で名を馳せたプレーヤーというバンドのリード・ボーカリストです。
グレイス・スリック、ピーター・ベケットという全米No.1がらみの「THROUGH THE WINDOW」ですが、これがなかなかの名曲です。
グレイス・スリックの元歌は、シンセや電子ドラムが前面に押し出されたエレクトロ・ポップ調の仕上がりなのですが、河合奈保子さんバージョンはというと、オーバー・ドライブのギターを大胆にフィーチャーしたウェストコースト/AORロック調になっています。
それもそのはず、河合奈保子さんバージョンのプロデューサーは、トム・キーン&ウンベルト・ガティカという方々。トム・キーンは「TOTOの弟分」とも言われたウェストコースト・ロック・バンド「キーン」のメンバーであり、ウンベルト・ガティカはデビッド・フォスターとの共作も多いアメリカ西海岸の名プロデューサーです。
このお二人にして、この音あり!ですね。
バック・ミュージシャンは明らかになっていませんが、同時期にリリースされたLA収録のアルバム「ナイン・ハーフ」と同じメンバーだとすると、
□ ドラム:ジョン・ロビンソン
□ ギター:マイケル・ランドウ
□ ベース:マイク・ポーカロ
□ キーボード:デビッド・フォスター、トム・キーン
という、ウェストコースト・ロック・ファンならヨダレが出てしまいそうな凄いメンバーです!
(ちなみにアルバムのプロデューサーはウンベルト・ガティカです。)
シンセのベース・ラインに被さるギターのハーモニックスからの、低音弦の重いリフが期待感を煽ります。曲全体で要所要所にこのリフが入ってくるのですが、TOTO、ボストンあたりの雰囲気で、この時点で洋楽ファンならもう引きずり込まれてしまってますね。
そして河合奈保子さんのハリのある艶やかなボーカル。この方、中音域から高音域にかけての音域の声の伸びが素晴らしいです。この曲で言えば、サビ前のロング・トーン、および間奏前のBメロのロング・トーン。ゾクゾクしてくるほどですね。バックの名手たちにも負けないくらいの堂々とした歌いっぷりが、実に気持ちがいいです。
間奏はマイケル・ランドウの独壇場です。短いフレーズですが、鉄板のウェストコースト・ロックの王道を行くギター・ソロ、という感じでしょうか。
河合奈保子さんバージョンの後にグレイス・スリックバージョンが流れます。
河合奈保子さん、クチパクですが・・・。
この「THROUGH THE WINDOW」は名曲だと思いますが、河合奈保子さんは「ナイン・ハーフ」「デイドリーム・コースト」という2枚のアルバムをLAのスタジオ・ミュージシャン達と作り上げています。いずれも歌謡曲という枠を超えた素晴らしい作品で、洋楽ファンでさえもきっと虜になるはず!
ぜひ、こちらも併せてお聴きください。
「河合奈保子・しんぐるこれくしょん」
「ナイン・ハーフ」
「デイドリーム・コースト」