収録アルバム "Augenblicke"(邦題:時の交差)
今回は、ドイツのシンフォニック・バンドで1970~80年代に人気を博したノバリスの8枚目のアルバム "Augenblicke"(邦題:時の交差)から "Cassandra" をご紹介します。
まず、「シンフォニック・ロック」というジャンルについて簡単にお話ししましょう。
立ち位置としてはプログレッシブ・ロックに非常に近いのですが、まったく一緒という訳ではありません。「シンフォニック」と言うからには、クラシック音楽の交響曲(シンフォニー)のような曲調、展開を持つロック、と思っていただければよいでしょう。また、シンセサイザーやメロトロンなどの電子楽器、あるいは実際のオーケストラのサウンドをアレンジに加えて、厚みや広がりのある曲空間を生成することも多いです。
プログレッシブ・ロックの中でも、「シンフォニック・ロック」と呼べるような曲を得意とするバンドは数多くありますし、またプログレッシブ・ロック以外、例えばメタルなどでもシンフォニックなアレンジや曲展開を好んで用いるバンドも多いです。
プログレッシブ・ロック界ではイエスやピンク・フロイドなどが代表的なシンフォニック・ロック・バンドと言えるでしょう。また、プログレ以外では、エレクトリック・ライト・オーケストラなどはバンド名そのままのイメージでシンフォニックなロックを展開しますし、ディープ・パープルなどのように実際のオーケストラと共演してロックを演奏していますが、これもシンフォニック・ロックと呼べるでしょう。
続いて、ドイツのロック事情についても少しお話ししましょう。
世界的に有名なドイツのバンドというと、タンジェリン・ドリーム、クラフトワークなどが挙げられます。前者はプログレッシブ・ロック、電子音楽、ニューエイジ・ミュージックなど様々なジャンルで足跡を残しているバンドであり、後者はエレクトロ・ダンス・ミュージックの第一人者です。ともに共通しているのは、前衛的、改革的であり、ジャンルの枠に縛られることのない、自由な発想で音楽に取り組む姿勢ですね。歴史的に見ると、長い期間の東西の対立などで抑圧された精神が、逆に音楽に対しては変革を求める強い衝動が形となって表れているのかもしれません。
もう一つ、忘れてはならないのが、「ジャーマン・メタル」ですね。スコーピオンズ、ハロウィンに代表されるドイツ勢は、メタルのサブ・カテゴリーとして成立するほどの大きな勢力を持っています。
さて、今回ご紹介するノバリスですが、1973年にアルバム "Banished Bridge" でデビューしました。キーボードをメインにしたプログレッシブ・ロック的なサウンドなのですが、ジャズ、ブルースといった要素はあまり見られず、逆に荘厳で神秘的な、ピンク・フロイドにも通ずるようなキーボードのアレンジが曲調を大きく左右しているところが、ノバリスが「シンフォニック・ロック」と呼ばれる所以ですね。
他の歴史あるバンドと同様にメンバー・チェンジを繰り返しながらアルバムをリリースしていくのですが、メンバーが変わって時にハード・ロック寄りになったり、ポップ色を強くしたりしても、サウンドの根底ではシンセサイザー、メロトロンを駆使した 神秘的、幻想的なエッセンスを失わずに保持しています。
"Augenblicke" は、ノバリスの8枚目のアルバムになります。このアルバムは、イギリスの抒情派プログレッシブ・バンド、キャメルの初期の頃の音作りに非常に近いものがあります。
アレンジ的に過度な装飾が一切排除されており、ピアノ、フルートといったインストルメンタルの繊細で華麗な生音の美しさに感動すら覚えます。一転、ギター・サウンドはオーバードライブを効かせたリード・パートやエフェクターに頼らないシンプルなアルペジオなど、曲調に合わせたサウンドで曲に彩(いろどり)を添えています。
バラードあり、ポップあり、ハードあり、と曲のバリエーションに富んだアルバムですが、全体を通してのイメージは「抒情的」であり、何度聴き直しても爽やかでリラックスできる完成度の高い作品です。
今回ご紹介する "Cassandra" は、ギターのリフが印象的なインストルメンタル・ナンバーです。リズム的には、キャメルの "Skyline" を彷彿とさせる三連のアップテンポな曲調ですが、ギターのマイナー・コードの主旋律、そしてメジャーに転じてのシンセのメロディ、そして再びギター・・・と曲調を変えながらギターとシンセがメロディを取り合うところは、ギターのリフのイメージも加味するとキャメルの "Echoes" が脳裏をよぎりますね。
フルートの躍動感たっぷりの間奏もあり、非常に聴きごたえのある曲です。
他の曲も少しご紹介しましょう。
"Danmark":キーボード主体の牧歌的、抒情的な非常に美しいインストルメンタル・ナンバーです。タイトルは、デンマークのことですね。旅情をそそります。
"Sphinx":攻撃的なギターが切り込んでくる、ミドル・テンポのインストルメンタル・ナンバーです。変拍子(七拍)やシンセのフレーズにより神秘的な曲調に仕上がっています。
"Als Kleiner Junge":悲しげなピアノで始める哀愁たっぷりのバラードです。タイトルは英訳すると "As a Little Boy" ということで、若き少年時代を回顧する曲でしょうか。後半の泣きのギター・ソロが非常に印象に残ります。
"Magie Einer Nacht":爽快なポップ・ロックです。タイトルは英訳すると "Magic One Night" で、「恋は一夜のマジック」的な歌詞なのかな、と思います。
今回はジャーマン・シンフォニック・ロックをご紹介しました。
ぜひ一度、ノバリスを聴いてみていただきたいと思います。