収録アルバム "Taking A Cold Look"
今回は、トム・ケリーとビリー・スタインバーグという1980年代に様々な名曲を生み出したソング・ライターが結成したユニット "i-TEN"(アイテン) の唯一のアルバム "Taking A Cold Look" から、名曲 "Alone" を紹介します。
前回、アン・ウィルソンとナンシー・ウィルソンの美人姉妹が率いるハートの "Alone" を紹介しましたが、実はこちらの "i-TEN" のほうがリリースは先だったんですね。しかし、一部のコアなファンは注目していたものの、一般的にはほとんど話題に昇りませんでした。
トム・ケリーとビリー・スタインバーグの二人は先の "Alone" の他にも、素晴らしい曲を世に送り出しています。
一例をあげますと、
年 | 曲名 | アーテイスト | 全米チャート |
---|---|---|---|
1984 | ライク・ア・バージン | マドンナ | 1位 |
1986 | トゥルー・カラーズ | シンディ・ローパー | 1位 |
1987 | ソー・エモーショナル | ホイットニー・ヒューストン | 1位 |
1989 | エターナル・フレーム | バングルズ | 1位 |
というように、それほど一般的な知名度は高くないのですが、輝かしい業績を持っているのです。
さて、その二人が組んだユニット "i-TEN" ですが、雰囲気としては、デビッド・フォスターとジェイ・グレイドンという二人のスタジオ・ミュージシャンが結成したユニット "AIRPLAY" に近いものがありますね。
今回のアルバム "Taking A Cold Look" は、プロデューサーにキース・オルセンとスティーブ・ルカサー(TOTO)を迎え、スティーブ・ルカサー(ギター)、デビッド、ペイチ(キーボード)、スティーブ・ポーカロ(キーボード)といったTOTOのメンバーを中心に、アメリカ西海岸の腕利きのミュージシャンがバックを固めるという、とても贅沢なアルバムになっています。
では、サウンド的にはどうでしょう。
TOTOのメンバーを始めとしたセッション・ミュージシャンのプレイには、ケチのつけどころがありません。アレンジも素晴らしいし、演奏も素晴らしい。曲自体も、数々の名曲を世に送り出してきたトムとビリーの手によるものなので、こちらも文句なし。
それなのに、このウェットな、湿っぽい感じは何故なのでしょう!
1曲目から "Taking A Cold Look" (輸入盤で歌詞カードがないのではっきりとはわかりませんが、「冷たい視線」ですかね。)というマイナー一直線のちょいシミッタレな曲から始まる構成のせいなのかもしれませんが、内に籠るような、梅雨時の空模様のような、何やらカラッとしないウェット感がぬぐえません。
名曲 "Alone" にしても、ハートの開放感に満ち溢れた、ハイトーン・ボイスが「これでもかー」と来るような感じとは全く違って、今ひとつパンチに欠ける物足りなさを感じてしまいます。
(しかし、これはハートの "Alone" が良すぎるので比較してはいけない、ということもあるかも知れないですね。)
アレンジに大きな違いはありません。こちらが先なので、ハートが原曲に足りない部分を味付けして、素晴らしい作品に仕上げた、というところでしょうか。
ネガティブなコメントばかりになってしまいましたが、曲自体はとてもレベルが高いです。演奏も良いです(以前に紹介した、キーンのような感じ)。
ぜひ一度聴いてみて、特に "Alone" はハートの演奏と聴き比べてみて欲しいですね。